2023年11月22日

【し~なチャン便り 第72話】「物の聲を聴け」~地方の時代映像祭で優秀賞受賞

全国各地の優れたドキュメンタリー映像作品を顕彰する「第43回『地方の時代』映像祭2023」の贈賞式が11月18日、大阪府吹田市で開かれ、秋田ケーブルテレビが制作した番組「『物』の聲を聴け~65年、ただひたすら集めて」が、ケーブルテレビ部門で最も優れた作品に贈られる「優秀賞」に選ばれました。

今回のドキュメンタリーの主人公は油谷満夫さん(89歳、秋田市)。70年近くかけて、50万点という途方もない量の「物」を集め続けた稀代の収集家です。私たちは油谷さんに1年間、密着して「秋田の宝」ともいえるコレクションが構築された過程と、その情熱を追いました。

この「プラっとコラム」でもこれまで油谷さんのこと、そして彼のコレクションのことを紹介してきました。コラムをご覧になった方々からご質問やご意見、油谷さんへの励ましと称賛の声をいただきました。皆さんのご意見が番組づくりに大きな力になりました。応援いただき、本当にありがとうございました。

さて、この映像祭は、1980年から日本放送協会(NHK)、日本民間放送連盟(民放連)、日本ケーブルテレビ連盟、さらに開催地の各自治体が共同で主催する、地方文化を映し出した映像作品を対象とした全国コンクールです。メーン会場の大阪・関西大学では1週間以上もすべての受賞作品を順次放映。一般の方々もキャンパスに自由に出入りして作品を視聴していました。

最高賞グランプリに選ばれたNHKの「立つ女たち 女性議員15%の国で」をはじめ、多くのメディアが「戦争と平和」「国家と国民」「コロナ禍の検証」など大きなテーマを掲げて展開、優れた作品を出し合ってきた中で、「地域の文化」という、ある意味で地味な、小さな主題を取り上げた私たちの番組が審査委員の方々の目を引き、評価していただきました。心からありがたく、そして頼もしく思っています。「分かってくれる人はいるんだ」と。すごいぞ!!  「地方の時代 映像祭」。

あらためて今、油谷さんの人生を思います。

誰も見向きもしなかった、失われていく「物」に価値を見い出し、信念を貫いた一人の、波乱に満ちた生涯。中には油谷さんのコレクションを実際に見ることなしに、「ゴミ」とか「ガラクタ」と評している方もいる、ということも取材を通じて知ることができました。残念なことですが…

コレクション、そういう方々こそ、見てほしいなぁ。そして「物」たちの声を聴いてみていただきたい…

収集品は、庶民の生活に密着した道具や用具、衣服、民芸品など、様々なジャンルに及びます。いずれも東北地方や秋田における普通の人々の暮らし、特に農民たちの暮らしが伝わる「物」ばかり。これは「ゴミ」「ガラクタ」なのか…少なくとも私には絶対にそうは思えません。

油谷さんは自分のコレクションの一つ一つを手に取るたびに、それぞれの「物の声が聞こえるんだ」と言っていました。時代の変化とともに捨てられ、失われていく運命となる『物』の収集に人生を捧げてきた油谷さんの言葉が今、再びよみがえってきます。
(下の写真は今年1月、秋田市・国際教養大学で、全国から来たアーチストたちに収集物を説明する油谷さん)

油谷さんの50万点の収集物のうち、20万点は秋田市に寄贈しました。しかし、残りの30万点が今後どうなるのか、民間人である油谷さんが一人で守っていけるのか…。取材した私たちにも結局、答えが見つかりませんでした。

映像祭では受賞作品が放映され、全国からのメディア関係者ばかりでなく、教育関係者、一般の方々に視聴いただきました。作品をご覧になって、油谷さんの人生に心を打たれたと声を合わせた後、やはり「残りの30万点はいったいどうなるんでしょうか」という質問をいくつもいただきました。

油谷さんは財力がある特別なコレクターではありません。個人的な欲望ではなく、ただ「庶民の暮らしを残したい」という思いだけでここまで来たのです。その思いは番組でお伝えしたつもりですが…「地域の文化」、それも庶民の暮らしに寄り添ってきた、「”普通の”物」たちを残していくことの難しさを感じています。

来年1月、油谷さんは90歳。残りの30万点、物たちの行方はまだ決まっていません。

 

記者プロフィール

西村 修(にしむら おさむ)

元秋田魁新報記者。秋田ケーブルテレビ記者、ALL-Aアドバイザー

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