2021年06月07日

【し~なチャン便り 第22話】6月3日 ライフワークは「布探し」

渥美清さん演ずる「フーテンの寅さん」、大好きでした。彼がいつも口にする言葉は「俺は旅人だからな、風の吹くまま気の向くまま」。コロナ下で外出自粛の中、つかの間の「旅気分」に浸るため、寅さんのDVDを見直す毎日です。

旅と言えば、私がずっと気になっていた人がいます。世界中で「布探しの旅」を続ける秋田市の小松正雄さん(72)。

小松さんはJR秋田駅近くのギャラリー「小松クラフトスペース」の2代目。ただし、2006年に店を長男・和彦さんにまかせ、今は「隠居」の身。でも、ただの「ご隠居」ではありません。引退後もライフワークともいえる「古代布」を探し求めてアジア、アフリカなど35カ国を回った、「アクティブ隠居」(言葉として矛盾かな?)なんです。

小松クラフトスペースは戦後間もなくの1948(昭和23)年、古着などを扱う小松呉服店として創業。1981年に店を継いだ正雄さんは呉服屋の若旦那、というわけですが、じっとしてはいませんでした。若旦那が最初にした仕事は「全国を巡って着物、布の研究を積むこと」。「布探しの旅」の始まりです。

「どこで、誰がどのように作っているか、自分が扱う商品ですから知らなければいけません。まず、この目で良いものだと確信しなければ扱えないと思ったんです」と小松さん。

国内で最初に訪れたのは「石垣島」。木綿糸を平織りで仕上げていく琉球王朝時代から伝わる織物「ミンサー織」を目にして、「手織りの素朴な風合いに魅せられた」と小松さん。布探し旅はさらに拍車が掛かっていきます。

続いて北東北の古い衣装や織物の収集に没頭。山形県米沢市を訪れたとき、縄文・弥生時代から伝わる布「しな布」に巡り合います。しな布を織り込んだ伝説の「しな織」、その復活に情熱をかける人たちと出会って感動。「山地に自生するシナノキの樹皮の繊維から作った、野趣に富む織物です。あらためて古布、手織りの良さを確かめられた」と振り返ります。

やがて「国内の古代布はすべて見た」と確信した小松さん、カンボジアでのボランティア活動に参加したことがきっかけで海外の伝統布にも興味を持ち、「布探し」の旅は世界へと広がっていきました。

インド、ミャンマー、タイ、インドネシア、ベトナムなどアジアの国々、さらに中東、アフリカへ。初めて訪れる国は出発前に資料をかき集め、徹底的に予習。その後は「出発と帰国、行き先だけ決めておき、宿泊場所や食事、布購入の交渉をする店などすべて現地で」という、旅のスタイル。

「(布探し海外編の)始まりはミャンマー。ここの山岳少数民族の織物を目にするたびに、あらためて『世界一、織物が得意な人々』だと思います。特に女性の刺繍が素晴らしい。幼いころから刺繍を始めて一生続けていく。これが上手でなければ女性として一人前と認められない、といわれるほど」

ミャンマーには100以上の民族がいる、といわれます。その中の山岳少数民族の一つ、ナガ族が住むのはミャンマー北西部のインド国境。ミャンマー政府の政策で厳しい入域制限が敷かれていますが、小松さんは、唯一外国人の立ち入りが許可されている「新年の祭り」に合わせて立ち寄った、といいます。

ナガ族は「かつては首狩り族」ともいわれた狩猟採集民族で、鮮やかな装飾が特徴。刺繍された布は、赤や黒、白などの原色が効果的に配置され、むしろ現代的で斬新なデザインに見えます。

また、ミャンマー西部のチン族の女性が手掛けたという織物も見せてくれました。これはナガ族とはまるで趣が違い、緻密な文様が組み合わされ、手織りとは思えないほどです。民族によって、それぞれ強烈な個性、特徴があるんですね。

番組の中で、小松さんが胸を張る、「私の旅で最大の宝物」、それは400年前のインド更紗で作った「パッチワーク」風の羽織。三角形の布をつぎはぎして作られた「千継(せんつ)ぎ衣装」(写真下)と呼ばれるもので、史料としても貴重なものです。王族が式典の際に着たと考えられ、インドの染色技術の高さをうかがわせます。

650枚ほどの布切れを継ぎ合わせたという、この羽織は2009(平成21)年9月、インドネシアのスマトラ島で王族の末裔から小松さんが譲り受けたもの。「高級品の更紗は、古くなっても小さな布にして接ぎ合わせて再利用したのでしょう。ハレの日に着る特別なもので大切にされたこと、継ぎ合わせたことで強度が増したことで400年以上残った。出会えて幸運でした」と話します。

━今後はどんな「布探しの旅」に出るんですか、どんな宝物を狙っているんですか?

「コロナ下で、今は世界への旅は難しい。まして辺境の地にはもう行けないかも。今後は、足元の秋田の地で、秋田ならでわの独特の布を掘り起こし、世界へ紹介していきたい」(小松さん)

小松さんの新たな「秋田の布探し」の旅、注目です!!

シニア記者プロフィール

西村 修(にしむら おさむ)

元秋田魁新報記者。秋田ケーブルテレビ記者、ALL-Aアドバイザー

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