2021年08月30日

【し~なチャン便り 第34話】8月26日 山を育てる 日々のコーヒー

「耕作放棄地」。何だか、もの哀しい響きですが…毎日のニュースなどで時々見掛ける言葉です。

かつては豊かな田んぼや畑だったものの、「後継者がいない」などの理由で作付けされなくなった土地のこと。多くは「荒地」になっている、といいます。

農水省が5年ごとに実施している「農林業センサス」では県内の耕作放棄地は9,530haで、潟上市の面積(9,772ha)にほぼ匹敵する、といいます(2020年2月1日現在)。10年前の調査と比べると約29%も増加。この増加率は東北(17.7%増)、全国(6.8%増)を大きく上回っています。農業県・秋田県にとって、「耕作放棄地」の増加、言い換えれば「後継者不足」は深刻な問題になっているんです。

こうした中、男鹿市の耕作放棄地の「再生」に取り組んでいる県内の大学生たちがいます。

「目指すのは『現代版里山』です」。そう語ってくれたのは国際教養大4年の大西克直(かつき)さん(23)=東京都出身=と県立大4年の保坂君夏(きみか)さん(22)=秋田市出身。2人は男鹿市内に一軒家を借りて共同生活をしながら、同市五里合地区の広大な耕作放棄地で土を耕し、野菜の作付に汗を流しています。

2人は「reweave(リウィーヴ)」という名前で活動を続けてきました。「reweave」とは日本語で「紡(つむ)ぎ直す」という意味。「人間が自然と共生して、つくりあげてきたものが里山。人と自然のつながりをもう一度、『reweave』、紡ぎ直したい。里山での農業の魅力を未来に残していきたい」と言います。

「紡ぐ」、本来は「綿や繭の繊維を引き出し、互いに絡み合わせて糸をつくる」ことですが、2人はこの言葉に「さまざまなものをより合わせて、一つのものをつくりだす」という意味を込め、活動のキーワードにしてきました。

1年半前、湯沢市で行われたイベントで出会った2人。親しく語り合ううちに、互いに農業や自然と関わる暮らしに興味があることを知ります。

大西さんは大学進学を機に初めて秋田へ。自然の豊かさに魅かれた一方で、放置された農地の存在が気になっていました。そして、大学で農業経済を学んでいた保坂さんもまた、後継者不足が進む農業に課題を感じていました。

昨年秋、「一緒に耕作放棄地の再生利用に挑戦しよう」と決意、今年3月からは空き家だった近くの一軒家を借りて、学業の傍らラディッシュや小豆、インゲンなどを栽培。少しずつ耕作面積を増やしながら、自分たちの夢「現代版里山」づくりを進めています。この開墾地を、2人は「複合協業拠点・ヤマノミナト」と呼びます。

「いわゆる『山の中にある港』のイメージ。港って、さまざまな人が集まってきますね。この里山の中にも『港』をつくり、新しい交流拠点にしたい、そんな思いです」(大西さん、保坂さん)

活動を支えているのは、自分たちで販売するコーヒー。東京のカフェで『バリスタ』の経験のある大西さんが、エチオピアとグアテマラの豆を仕入れて焙煎。「さとやまコーヒー」と名付け、イベントやインターネットで販売しています。キャッチフレーズは「山を育てる、日々のコーヒー」。

「皆さん、コーヒーを飲んだとき、ほっとしますよね。自然に向かい合うときもきっとそうだと思います。ほっとするコーヒーを飲むごとに、棄(す)てられた自然が蘇っていく。そんな体験を届けたいんです」(大西さん)

2人だけの手作業の農業。突然、『耕作放棄地』に入ってきた若者たちを、地元の人たちはどう思っていたのでしょうか━

「お年寄りが多く、若者が少ない地域ですので、私たちが入ってきたことを喜び、歓迎してくれました。ただ、初めのうちは『なぜこんな荒地で…』『平地で整地済みで機械の入れる田んぼもあるのに』という声がありました。不思議な若者たち…と思っていたのではないでしょうか。でも今は私たちのことを理解してくれています。地域の方々は大きな支えです」(保坂さん)。

「これまで開墾してきた農地は複数ありますが、いずれも藪になっていました。そこで茂っている低木や草木を根っこから根こそぎ取り、手作業で開墾しました。重労働でしたよ、でも楽しいんです。やめたいとか、つらいとか、思いませんでした」と2人は振り返っています。

「大変だけど楽しい」、胸を張ってそう話す2人が輝いて見えました。「大変だよね~」などと余計な言葉を挟まないでよかった…

「車の音も聞こえない大自然に囲まれ、自分を見つめ直す時間にもなる。心からリラックスできる場所です」(大西さん)、「農地は農業生産の現場というだけではない。子どもから大人まで幅広い世代が自然と触れ合って、収穫の喜びを味わい、交流できる━そんな食育の場にもなる」(保坂さん)

人がいたからこそ、そこで暮らしを続けてきたからこそ、維持されてきた身近な自然・里山。2人が目指す「現代版里山」、その行方を大きな期待を持って見守りたいと思います。

さとやまコーヒーhttps://reweave.thebase.in/items/41363212

 

シニア記者プロフィール

西村 修(にしむら おさむ)

元秋田魁新報記者。秋田ケーブルテレビ記者、ALL-Aアドバイザー

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